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岐阜地方裁判所高山支部 昭和56年(ヒ)3号 決定

会社 有限会社オリジナル観光出版

申請人(取締役) 中澤澄夫

〈ほか五名〉

主文

本件申請はこれを却下する。

理由

(申請の趣旨)

有限会社オリジナル観光出版の組織を変更して株式会社オリジナル観光出版とすることを認可する

との裁判を求める。

(申請の理由)

一、有限会社オリジナル観光出版(以下、申請会社という)は資本総額金一、四〇〇万円とし、つぎの(イ)ないし(ト)の事項を目的として昭和五二年三月一八日設立した会社である。

(イ)  土産品の製造、卸及び販売

(ロ)  一般出版物のデザイン、企画及び販売

(ハ)  デザインの企画販売

(ニ)  食堂及び喫茶店の経営

(ホ)  写真撮影の代行及びネガの貸付

(ヘ)  広告代理店

(ト)  前各号に附帯関連する一切の業務

二、申請会社は昭和五六年七月一九日開催の社員総会において、総社員一致による決議をもって、その組織を変更して株式会社とすることにした。その概要はつぎのとおりである。

(1)  商号  株式会社オリジナル観光出版

(2)  会社の発行する株式の総数 一一二、〇〇〇株

(3)  額面株式一株の金額 金五〇〇円

(4)  組織変更に際して発行する株式の総数 額面株式二八、〇〇〇株

(5)  発行価額 一株につき金五〇〇円

(6)  資本の額 金一四、〇〇〇、〇〇〇円

(7)  株式割当方法

出資一口に対し株式二〇株を割り当てる

三、尚、昭和五六年七月一九日現在の貸借対照表による会社に現存する純資産額は金一五、六三七、〇七〇円である。

四、申請会社は、右決議に基き、債権者に対して組織変更に異議があれば一ヶ月以内に述べるよう昭和五六年七月二九日付官報をもって公告するとともに、知れたる債権者には各別に催告をしたが、所定の期間内に異議を述べた者はなかった。

五、よって、本申請に及んだ次第である。

(当裁判所の判断)

有限会社法第六七条第二項は、有限会社を株式会社に組織変更するに際して発行する株式の発行価額の総額は会社に現存する純資産額を超えてはならない旨規定しているところ、これはこれを認めると設立の当初から資本に欠損のある株式会社を認めることになり資本充実の原則に反するからである。

ところで一件記録によると、申請会社は昭和五六年七月一九日の社員総会において、組織変更に際して発行する株式の発行価額の総額を二、八〇〇株金一、四〇〇万円とし、株式会社に組織変更する旨の決議をしたことが認められるが、右同日現在の申請会社の貸借対照表によると、資産の部土地項目に金一、四〇〇万円とあるが、内木順作成の鑑定書によると、申請会社の右同日現在の純資産総額は金一、五六三万七、〇七〇円であるとしており、その資産のうち中澤澄夫に対する貸付金一、四九〇万円が含まれるとしているが、右貸付金は右貸借対照表の土地項目に該当するものと考えられるところ、これは《証拠省略》によれば、昭和五三年七月一四日申請会社は高山信用金庫からの借入金のうちから岐阜県高山市上岡本町九三五番地の五木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建居宅を申請会社本店として購入した他、その余の金一、四〇〇万円を同家屋の敷地(同所同番地の五宅地一九五・三〇平方米)を中澤澄夫が購入するに際して同人に右同日貸付けたものであること、その貸付の条件は貸付金利は同信用金庫の貸付利率と同率とし、利息は同土地の借地料と相殺し、貸付金元本の返済は申請会社の土地使用期間中猶予するというものであることが認められるのである。

よって考えるに、右の土地はどのように解しても中澤澄夫個人の所有地であって申請会社の所有と考えられる余地はないが、さりとて同人に対する右土地購入の為の貸付金と考えても、右貸付の条件は申請会社の存続中は貸金元本の返済をしない旨の定めであるから殆んど申請会社の資産と考えることはできず、株式会社のような物的会社にあっては会社債権者の引き当てとすることは到底考えられないものである。そうすると、右中澤澄夫に対する貸付金一、四〇〇万円は右法条の純資産に含まれると看ることはできない。

結局、本件組織変更認可の申請は前記法の趣旨たる資本充実の原則に反するといわなければならないからこれを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 宗哲朗)

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